ウイルス性肝炎とは
肝臓がウイルス感染して炎症を起こす疾患をウイルス性肝炎といい、A・B・C・E型の4種類のウイルスはそれぞれ特徴があります。どの型もウイルス感染が原因で自己免疫反応が起こり、肝臓の細胞に障害が発生します。肝炎を発症する原因には肝炎ウイルスの他に、日本人の大多数が抗体を持っているヘルペスウイルスの一種であるEBウイルスも存在します。
ウイルス性肝炎の種類
A型肝炎ウイルス(HAV)
便からウイルスが排出され、手・水・食品から経口感染することで感染します。A型肝炎の主な症状に発熱・全身倦怠感・頭痛・筋肉痛・食欲不振・吐き気・嘔吐・腹痛があります。症状が出る方もいれば、無症状・軽症の場合もあるため、感染に気づかない場合もあります。
B型肝炎ウイルス(HBV)
血液・体液を介して感染し、ウイルス感染した母親からの母子感染や輸血・性行為による水平感染により、感染します。感染様式は「一過性感染」と「持続感染」とあり、一過性感染を起こした場合には急性肝炎を発症するパターンと、自覚症状がないまま治癒することがあります。持続感染の場合、ウイルスが体外に排出されないために半年以上肝臓に炎症が起こります。適切に治療を行わないと、慢性肝炎から肝硬変、進行すると肝臓がんを発症します。
C型肝炎ウイルス(HCV)
血液を介して感染し、過去に輸血・血液製剤の使用経験やC型肝炎の感染者との性交渉・刺青や覚醒剤の使用・稀ですが出産時の母子感染が原因となります。C型肝炎は慢性肝炎同様に急性肝炎のような強い症状がありません。そのため自覚症状なく進行し、慢性化することで肝硬変・肝臓がんへ高い確率で移行していきます。このようなことから、早期発見・早期治療が不可欠です。
D型肝炎ウイルス
D型肝炎ウイルスは単独でウイルスが増殖することはなく、増殖する過程にはB型肝炎ウイルスを必要とします。急性肝炎を同時に感染すると、重症化しやすいため注意する必要があります。なお、D型肝炎ウイルスは、南ヨーロッパ・欧米諸国を中心に流行する疾患であり、日本での発症はほとんど見られません。
E型肝炎ウイルス
日本でも往々にして発生していますが、海外の流行地に生息する動物の糞便に汚染されたものを経口摂取することにより、感染することが多いです。イノシシ・シカなどをしっかり加熱せずに食べることや、豚レバーを生で食すことで感染するとされています。急性肝炎として発症し、短期間で症状が発生、治癒します。予後良好な疾患ですが、妊婦が感染すると重症化しやすいため、注意が必要です。
ウイルス性肝炎の潜伏期間と症状
A型肝炎
2~6週間を経て発症し、発熱・全身倦怠感・食欲低下・吐き気・嘔吐・腹痛が起こります。A型肝炎ウイルスは衛生環境の悪い地域へ旅行すると感染する方もいます。A型肝炎は予防接種を受けることで未然に予防可能な疾患です。感染リスクの高い地域へ行く予定のある方は、事前にワクチンを打つことをお勧めします。
B型肝炎
感染していても無症状の場合もありますが、多くは感染後1カ月~半年で発症します。全身倦怠感・嘔吐・食欲不振・黄疸・尿の色が濃くなるなどの症状が起こります。この他に、胆汁うっ滞と呼ばれる胆汁の流れが停滞することで全身の掻痒感・便の異常を引き起こすこともあります。黄疸の症状が悪化すると、初期症状である食欲不振・嘔吐などの症状が消えるため、回復したように感じます。黄疸は2週間ほど経つとピークに達した後に数週間かけて消失していきます。稀に肝不全に付随して「劇症肝炎」を発症することがあります。「劇症肝炎」は進行スピードが早い特徴があり、肝機能の低下・血液を固める凝固因子が産生されなくなります。さらに、人体にとっての有害物質が血液を通じて脳まで達すると「肝性脳症」が起こり、重症化すると昏睡状態となり、生命の危険が及びます。成人が感染すると死亡する確率が高くなるため、B型肝炎の予防接種を受けることをお勧めします。
C型肝炎
およそ70%の方は無症状で持続感染者となる特徴があります。後に慢性肝炎・肝臓がん・肝硬変へと進行し、慢性肝炎を発症した方のうち、およそ40%は20年以上の長い期間を経て「肝硬変」へと進行します。肝硬変は、「代償性肝硬変」と呼ばれる初期に肝機能が正常に保たれることで、合併症を起こしにくい状態になります。しかし進行するにつれて、「非代償性肝硬変」と呼ばれる肝機能の低下による合併症・症状を伴う状態に変化します。C型肝炎ウイルスの特徴として、急性症状を起こしにくいため、自覚症状なく「非代償性肝硬変」へと進行し、この段階で症状が出始めることがあります。初期症状は全身倦怠感・疲労感・食欲不振などですが、進行して肝硬変・肝臓がんまで進行すると、黄疸・腹水・肝性脳症・体重減少などが起こるようになります。ただし、これらの症状が必ず起こるというわけではないため、健診で肝硬変・肝臓がんが発見されることもあります。
E型肝炎
A型肝炎と同様に急性肝炎を発症します。発症するまでの潜伏期間は3~8週間程度です。症状に肝機能障害・発熱・吐き気・黄疸・腹痛・肝腫大などの急性肝炎の症状が現れます。一般的には予後良好な疾患です。
ウイルス性肝炎の治療
A型肝炎ウイルス(HAV)
食欲不振を起こしている場合には、薬物療法を行うこともありますが、慢性化しないため自然治癒します。
B型肝炎ウイルス(HBV)
薬物療法でウイルスの活動を抑制しますが、現代の医学ではウイルスを完全に排除することは難しいといわれています。肝機能障害の発症を阻止し、肝硬変・肝がんなどの重篤な疾患を起こさないようにすることが大切です。
C型肝炎ウイルス(HCV)
薬物療法を用いてウイルスの排除を行います。C型肝炎の治療薬は急速な進化を遂げており、ウイルスの完全排除を治療のゴールとして考えています。
E型肝炎ウイルス
A型肝炎と同じく、慢性化せずに自然治癒します。食欲不振を起こしている場合には、薬物療法を行って治療することもあります。
各ウイルス性肝炎の発症予防
A型肝炎・B型肝炎は、予防接種によって未然に予防することができます。A型肝炎・E型肝炎は衛生環境の悪い水をそのまま飲むことは避け、煮沸することを心がけます。食材もしっかり加熱してから食べるようにしましょう。B型肝炎・C型肝炎は体液・血液から他人へと感染します。そのため、性交渉にはコンドームの着用・感染者と歯ブラシの共有はしない・他人の血液に触れないよう、徹底的な感染対策が重要です。妊娠後に感染が判明した場合、子供の感染予防のために出産時の予防接種・免疫グロブリン製剤を使用します。