血液内科とは
血液の病気は白血病やリンパ腫、多発性骨髄腫など腫瘍性疾患を想像する方が多く怖い病気のイメージがあると思いますが、栄養障害や自己免疫疾患など多彩です。
健康診断やかかりつけの先生から受診を勧められることが多い科ですが、ご自身で血液が止まりにくい、発熱を繰り返す、リンパ節が腫れているなど気になる症状がありましたら気軽にご相談してください。
当院の特徴
血液疾患は近年、新規治療薬の進歩の恩恵を受けている分野です。骨髄異形成症候群や多発性骨髄腫などこれまでは予後不良といわれていた分野も治療法が進歩しておりご自宅で日常生活を送りながら通院治療している方が多くおられます。疾患の状況とご家族とご本人の希望に沿って柔軟に治療の目標を設定し、より良い生活の質を考える時代になっています。
当クリニックはエビデンスに基づいた抗がん剤・分子標的薬の治療はできませんが、血液疾患を疑う患者さんの専門施設への速やかな紹介、治療中の患者さんが治療の間に自宅で過ごすためのサポート(GCSF製剤の実施や輸血支持療法の実施)を主治医の先生方と連携して実施できればと考えております。
特徴的な症状
病気特有の症状はありますが、基本的には白血球・赤血球・血小板の異常なので症状はどの病気も似ています。発熱・動悸・息切れ・倦怠感・皮膚が黄色に見えること・頭痛・腹痛・意識障害・止血困難・歯肉出血・消化管出血などです。
主な疾患
血液疾患は腫瘍性疾患のほかに鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、伝染性単核球症など、感染症から自己免疫疾患、栄養障害など様々な原因があります。
腫瘍性疾患とは急性白血病(骨髄性・リンパ性)、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、リンパ腫、多発性骨髄腫などです。初めて聞かれるものもあると思いますので一部を下記に記載します。必要に応じて専門施設へ速やかに紹介いたします。
- 急性骨髄性白血病(AML)
- 骨髄異形成症候群(MDS)
- 骨髄増殖性疾患(真性多血症(PV)、本態性血小板血症(ET)、慢性骨髄単球性白血病(CMMoL)、慢性骨髄性白血病(CML) ほか)
- 原発性骨髄線維症(MF)
- 急性リンパ性白血病(ALL)
- リンパ腫(B細胞性リンパ腫、T細胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫)
- 慢性リンパ性白血病(CLL)
- 多発性骨髄腫(MM)
- 成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)
ほか
- 再生不良性貧血
- 溶血性貧血
- 免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
ほか
- ビタミンB12欠乏性貧血
- 葉酸欠乏性貧血
- 鉄欠乏性貧血
ほか
溶血性貧血
自己免疫性疾患であり膠原病・SLEに伴って発症することもある疾患です。赤血球の表面にある抗原に対して自己抗体を生成します。これが補体・網内系に関係して赤血球の膜が破れて起こる貧血とされています。温式抗体とは37℃で活性するものであり、冷式抗体は0~4℃で赤血球に結合するものがあります。症状は貧血による動悸・息切れ・倦怠感・皮膚が黄色に見えることなどがおこります。治療にはステロイド・脾臓の摘出・免疫抑制剤などの治療を行います。
鉄欠乏性貧血
鉄不足が原因で起こる貧血のことです。赤血球は全身に酸素を送る役割を担い、その中のヘモグロビンの生成には鉄が不可欠です。鉄不足でヘモグロビンが不足します。これにより酸素が十分に送られず、貧血症状になります。鉄不足の原因は出血・偏食・消化器系疾患による鉄の吸収障害・慢性炎症による鉄の造血機能の障害などが挙げられます。妊娠中の貧血は、胎児の成長には多くの鉄分を要し、血液循環量を増やすために鉄不足に陥ります。治療は、鉄剤の服用や注射を行います。月経過多にはホルモン療法となるピルの服用や手術が検討されます。
巨赤芽球性貧血
巨赤芽球性の造血異常であり主なものは、ビタミンB12や葉酸が体内に不足するもの、先天性代謝異常、薬剤性などがあります。
真性赤血球増加症(多血症)
骨髄増殖疾患の中の真性赤血球増加症と喫煙・脱水・睡眠時無呼吸症候群による二次性赤血球増加症があります。症状は皮膚の掻痒感や高血圧、脾腫、血栓ができやすくなり動脈に詰まれば疼痛を認め組織の壊死がおこります。速やかに診断し瀉血や薬剤治療などの必要があります。
本態性血小板血症
骨髄増殖性疾患であり、血小板の増加と形態異常を認めます。血小板の機能異常を起こすため出血や血栓症をおこし鼻出血や消化管出血、血尿、片足にむくみを認めます。診断には骨髄検査が必要です。
血液のがん
血液は造血幹細胞が白血球・赤血球・血小板に分かれ(分化)、白血球はさらに好中球やリンパ球など細かく分化していきます。この過程のどこかで異常が起こる病気が血液のがんです。異常の起こる場所で白血病(骨髄性・リンパ性)、リンパ腫、骨髄腫と分類されます。これらの病気は診断によって似た病態をとることになります。 疾患の一部を記載しますが、症状はこれまでの病気と同様に赤血球・白血球・血小板異常によるものなので同じになります。症状があるときは血液検査をする必要がありますので受診して検査をお願いします。
急性骨髄性白血病(AML)
急性骨髄性白血病は、骨髄中で白血球に分化する過程の未熟な細胞に異常が起こって、がん化した細胞(骨髄芽球)が骨髄で異常に増える病気です。中でも、前骨髄球に異常が起こった場合を、急性前骨髄球性白血病(APL)といい治療法が別の対応になります。
症状は白血病細胞(骨髄芽球)が増殖することによって正常な血液細胞がつくられなくなり、赤血球、血小板が減少し白血球は増加するとこも減少することもあります。そのため、貧血の症状として息切れや動悸、血小板が少なくなるために鼻血や歯肉からの出血、発熱などの症状があらわれます。頭痛や腰痛、関節痛などの痛みの症状があらわれることもあります。
治療は抗がん剤による薬物療法が中心ですが、遺伝子検査の結果によって使用できる薬剤など治療は日々変化しています。年齢によっては造血幹細胞細胞移植の可能性があります。
急性リンパ性白血病(ALL)
急性リンパ性白血病は、白血球の一種であるリンパ球に分化する前の細胞に異常が起こり、がん化した細胞(骨髄芽球や異型リンパ球)が骨髄で無制限に増える病気です。リンパ球はT細胞かB細胞によって病気の分類が変わります。また中枢神経に浸潤しやすく、フィラデルフィア染色体が見られる場合があります。
また急性リンパ性白血病とリンパ芽球性リンパ腫(LBL)は似た病態です。髄外腫瘤の有無や白血病細胞が骨髄に浸潤している割合が25%以上の場合を急性リンパ性白血病、25%未満の場合をリンパ芽球性リンパ腫といいます。 症状は急性骨髄性白血病の症状に加えて中枢浸潤のために麻痺があらわれることもあります。
検査と治療も急性骨髄性白血病と似ている部分と異なる部分がありますので主治医との相談が必要です。
骨髄異形成症候群(MDS)
骨髄異形成症候群は、造血幹細胞に異常が起き正常な血液細胞がつくられなくなる病気です。造血幹細胞が血液細胞に成熟する過程で成長が止まったり、血液細胞に成長しても細胞が壊れていたり(無効造血)、形態や機能に異常が生じていたり(異形成)します。血液細胞のうち、赤血球、白血球、血小板すべてが減る場合と、いずれかが減る場合があります。一部は、急性骨髄性白血病に移行していることがあります。
症状は急性骨髄性白血病と似ている部分の他に、健診や定期受診時の血液検査の時あるいは感染症の治療中などがあります。
検査は血液検査の血液像で異形成を認めた場合、診断を確定するために骨髄検査をうけます。血液検査でWT1mRNA検査も診断の一助になります。
治療は、抗がん剤による薬物療法、年齢によっては造血幹細胞移植の可能性があり主治医との相談が必要です。
リンパ腫
リンパ球系の造血器腫瘍であり、骨髄腫と白血病を除いたものの総称です。T細胞性とB細胞性に分類され白血病の病態に近いものから骨髄腫の病態に近いものまで幅が広く分類も多い病気です。症状はこれまでの病気の症状の他にリンパ節が腫れる、皮膚に腫瘤を作るなど多彩です。
多発性骨髄腫
形質細胞の悪性増殖性疾患であり、血液と尿中にMタンパクという異常な蛋白をみとめます。特徴は貧血・腎障害・高カルシウム血症・骨折を認めます。健診では総蛋白の異常を認めた場合に蛋白分画検査を行いMタンパクを確認する必要があります。
症状はほかの血液がんと同様で多彩であり皮膚に腫瘤をつくることもあります。
治療は抗がん剤や分子標的薬など多彩でこの数年で最も新規に使えるようになった薬剤が多い病気です。
(出典:国立がんセンター がん情報サービス 血液学用語辞典)
検査
診断するために骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)が必要です。骨髄検査は、皮膚を消毒し局所麻酔をした後に、一般的には腸骨(腰の骨)に針を刺して、骨髄組織を採る検査です。診断の助けとしての血液検査もあります。
担当医師
院長
赤川 由里 Yuri Akagawa
認定・資格等
- 日本内科学会認定内科医
- 日本血液学会専門医
- 日本医師会認定産業医