甲状腺機能亢進症(バセドウ病)とは
甲状腺機能亢進症(主にバセドウ病)は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで生じる疾患です。一般的に20~30代の女性に多くみられ、男女比は1:5と言われています。甲状腺ホルモンが数週間以上をかけて徐々に過剰分泌となり、心臓や筋肉の新陳代謝が過度に活性化した状態となります。その結果、精神的にも興奮状態となり、イライラしやすくなります。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の原因
体質の変化により、体が自身の甲状線を異物とみなしてしまい、甲状腺の細胞の表面にあるTSH受容体を攻撃するための自己抗体TRAb(抗TSH受容体抗体)が産生されます。このTRAbがTSHの代わりにTSH受容体にくっつくことで、常に甲状腺を刺激し、その結果甲状腺ホルモンを過剰に分泌するバセドウ病になると考えられています。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状
全身症状 | 暑がり、疲れやすい(易疲労性)、だるい、体重減少、体重増加 |
体温 | 微熱 |
顔つき・首 | 目つきが鋭い、眼球突出、複視、甲状腺腫大 |
神経・精神症状 | イライラ感、落ち着かない、集中力低下、不眠 |
循環器症状 | 動悸、頻脈、心房細動、心不全、むくみ、息切れ |
消化器症状 | 食欲亢進、食欲低下、口渇、軟便、排便回数増加 |
皮膚 | 発汗、脱毛、かゆみ、皮膚が黒くなる |
筋骨症状 | 脱力感、筋力低下、骨粗鬆症、手足のふるえ、周期性四肢麻痺(男性のみ) |
月経 | 月経不順、無月経、不妊 |
血液値 | コレステロール低下、血糖上昇、血圧上昇、肝障害 |
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の検査・診断
血液検査で、甲状腺ホルモン・甲状腺刺激ホルモンの数値を測定します。甲状腺ホルモン(FT3・FT4)値が高い場合、また甲状腺刺激ホルモン(TSH)値が低い場合に、バセドウ病と診断されます。また、自己抗体であるTSH受容体抗体(TRAb)の有無を検査し、TRAbが陽性だった場合は、バセドウ病と診断されます。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の治療
まず抗甲状腺剤を投与し、甲状腺機能を正常な状態に戻していきます。ただし、甲状腺機能が正常化してから早期の治癒を希望する方や、抗甲状腺剤の副作用で内服ができない方、甲状腺腫が大きな方などには、別途手術かアイソトープ治療を提案します。
内科的治療
抗甲状腺剤を服用し、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する方法です。服用開始から2か月ほどで甲状腺機能が正常化し、症状も軽くなります。一方、副作用としては、薬が効きすることがあること、また、まれに血液中の白血球が減り、感染症にかかりやすくなることがありますので、治療開始後にも定期的な血液検査が必要です。
外科的治療
上記の通り、甲状腺の腫れが大きく、薬のみでの治療が難しい場合は、外科手術を施して甲状腺を切り取ります。
放射線治療
放射線を発するヨードを飲み、その放射線によって甲状腺の機能を低下させるという治療法です。効き目は早いのですが、放射線の後遺症として、完治後も甲状腺機能を低下させてしまう可能性があります。
バセドウ病と正しく付き合うために
仕事
基本的には、体調に無理のない範囲で、通常通りの続けていただいて問題ございません。ただし、バセドウ病はストレスなどによって悪化することがあります。甲状腺機能亢進症の症状(動悸や息切れなど)が強まったり、睡眠障害などを引き起こす可能性もありますので、肉体的に・精神的に負担をかけないよう注意しましょう。症状が安定するまでは、適度に休憩をとるなどの配慮をし、それでもストレスを感じてしまう場合には、一定期間休職することも必要になっていきます。
運動
甲状腺機能が安定すれば、特に運動制限をする必要はないため、一般的には、治療開始から約2か月経過すれば、通常通り運動は再開できます。ただし、どの程度運動して良いかは治療の経過度合いによっても変わりますので、担当医と相談しながら慎重に始めるようにしましょう。甲状腺機能亢進状態が続いている間は、激しい運動を控え、軽めのメニューにするよう心がけましょう。甲状腺ホルモンが過剰に産生されている状態では、安静時でも脈拍や心拍数は高まっていますので、過度な運動によって心臓への負荷が増すと、心不全や心房細動などを引き起こす可能性があり、注意が必要です。
食事
基本的には、食事制限はありません。ただし、バセドウ病のみならず、甲状腺の疾患を持つ方は、ヨウ素と呼ばれる成分の摂取には注意が必要です。ヨウ素は、主に海藻類や、イソジンなどのうがい薬に多く含まれます。特に放射性ヨウ素内用療法(アイソトープ治療)を受けている方や、甲状腺の切除手術をうけて甲状腺が小さくなっている方は、ヨウ素を大量に摂取すると、甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります。一般的な食事ではヨウ素を過剰摂取してしまうことはほぼありませんが、食事以外に根昆布療法を行っていたり、イソジンなどのうがい薬を毎日使用している場合は、それが原因で過剰摂取となる恐れがありますので、注意しましょう。
治療
バセドウ病の治療において重要なことは、甲状腺ホルモンの産生を抑える薬(抗甲状腺薬)の使用をご自身の判断で中止しないことです。治療が進み、症状が安定してくると、完治したように感じて、薬の使用が不規則になってしまったり、中断してしまうケースが少なくありません。しかし、バセドウ病は、治療によって症状を軽くすることはできても、完治はしない病気です。ご自身の判断で薬の使用を3〜4日中断してしまうだけで、最初の甲状腺機能亢進状態に戻ってしまうことがあります。さらに、薬の使用を中断することで、甲状腺クリーゼと呼ばれる、生命に危機が及ぶレベルでの重篤な甲状腺機能亢進状態に陥る危険性も高まります。一度バセドウ病と診断されたら、症状がおさまっても油断せずに医師の判断通りの治療を続けることが重要です。一方で、抗甲状腺薬には副作用の可能性もあり、一般的には治療開始から3か月以内に発生することが多いです。ほとんどは軽度なかゆみや蕁麻疹などの症状で収まりますが、まれに高熱を引き起こしたり、重篤な肝機能障害に陥ることがあります。そのため、当院では2週間に一回は通院していただき、検査を受けるようお願いしています。