健康診断でPSA(前立腺腫瘍マーカー)が高いと指摘された
PSA検査とは
前立腺がんの有無を調べるために採血してスクリーニング検査を行うことをPSA検査といいます。PSAは前立腺特異抗原、Prostate-specific antigenの略称であり、前立腺の上皮細胞から分泌される蛋白であり、精液中に多く含まれています。この蛋白は精液がゲル化していることに関係しています。精液の他にPSAは血中に含まれることがありますが、前立腺がんの罹患者は血液中に多く含まれるため、PSAの数値が高くなります。50歳以上の男性の方で、今まで一度もPSA検査を受けたことがない場合は、早めに検査を受けることをお勧めします。前立腺がんは早期発見できれば完治が見込める病気です。なお、PSA検査は近隣の泌尿器科・健康診断で検査することができ、泌尿器科においては採血だけでなく、触診・超音波検査で精密検査が可能です。検査を一度も受けたことがない方は、ぜひ一度泌尿器科を受診しましょう。また、かかりつけの泌尿器科がない方は、お気軽に当院までご相談ください。
PSAの正常値は
- PSA1以下の場合 最低でも3年に1回はPSA検査を受ける
- PSA1.1~3.9の場合 毎年PSA検査を受け、69歳以下の方はPSAが3~3.9の場合には泌尿器科の受診をお勧めします
- PSA4以上の場合 泌尿器科を受診しましょう
PSAが高くても前立腺がんと確定したわけではありません
PSAの数値は、前立腺がん以外の前立腺肥大症・前立腺炎に罹患していても高くなることがあります。しかし、PSAの数値が4以上であっても必ずしも前立腺がんであると決まったわけではありません。PSAの数値が4~10の場合、約2~3割に前立腺がんが見つかります。ただし、数値が20以上になると半数が前立腺がんを発症しており、数値が高ければ前立腺がんの可能性が高くなります。全身に広がった前立腺がんの場合、数値が1000以上を示すことがあります。前立腺がんの確定診断には専門医の診断が必要です。PSAが4以上の場合には、数値に関係なく泌尿器科を必ず受診しましょう。
PSA高値の際に行う検査
泌尿器科をPSA値が高いことで受診する際の検査手順は以下の通りです。
直腸診
前立腺の触診には、肛門から指を直腸内に挿入します。苦痛を伴う検査ですが、泌尿器科では進行した前立腺がんは触診だけで診断が可能なため、必ず受ける必要があります。
腹部超音波検査
前立腺肥大症を発症している場合、PSA値は高くなるため、必要な検査となります。
前立腺MRI検査
直腸診・腹部超音波検査で前立腺がんの可能性がある場合に、MRI検査を実施します。
前立腺生検
前立腺の組織採取を行い、がん細胞の有無を確認して確定診断を行うための検査となります。前立腺MRI検査で前立腺がんの可能性がある場合には生検をお勧めしますが、身体へのダメージが大きく、感染症などの合併症を引き起こす可能性があります。そのため、80歳以上の高齢者・基礎疾患がある方は検査をうけるかどうかは慎重に判断する必要があります。専門医が生検を行う上でのリスク・ベネフィットを見極めることが重要です。なお、前立腺生検を行うと判断した場合には、連携している病院を紹介した上でスムーズに検査を受けることができるように配慮していますのでご安心ください。
前立腺生検について
女性が出産時にとる体位である砕石位になり、肛門から直腸内に指2~3本分の超音波装置を挿入します。直腸壁から超音波で前立腺をよく観察し、直腸壁を通して生検針を前立腺に刺して10~15本程度の組織採取を行う検査です。検査自体は10~15分程度で終了し、1泊2日の入院の中で行っています。生検を行った上での合併症に肛門からの出血・血尿・精液に血が混じる・尿が出なくなる・直腸の大腸菌に感染することで起こる急性細菌性前立腺炎を起こす可能性があります。なお、感染症は発症が稀ですが重症化しやすいため、退院後1週間程度はご自宅で体温測定を行います。38℃を超える高熱が出た場合には、検査を受けた病院または当院までご連絡ください。
生検を行って前立腺がんと診断された場合
前立腺生検で前立腺がんと診断された場合、生検を受けた病院で画像検査を行うことで転移しているか確認することができます。PSAの数値が4~10の場合、転移はほとんど見られることなく、転移がなければ過度に心配する必要はありません。治療を行うことで完治が見込める疾患であり、治療方針の決定までに前立腺がんまで進行することはありませんので、ご安心ください。
転移していない前立腺がんの治療法の選択肢
- 手術
- 外照射、小線源治療などの放射線治療
- ホルモン療法(80歳以下・基礎疾患のない方は適用外)
- 治療せず、経過観察
主治医とご相談の上、治療法を決めることも可能ですが、限られた外来時間内での詳細な説明が困難な場合には、当院で治療法に関して詳しく説明させていただきます。転移のある前立腺がんがステージ4の前立腺がんの場合にはホルモン療法を選択します。前立腺がんは男性ホルモンで育っていくため、去勢を行うことで前立腺がんの進行は一気に衰えていきます。ホルモン治療は男性ホルモンを低下させるホルモン注射を1~3カ月毎に行って去勢状態まで低下させます。この治療法は抗がん剤と違って副作用がかなり少ない治療法になるため、高齢者・基礎疾患のある方でも安全に治療でき、当院においてもホルモン治療は実施しています。前立腺がんを治療する上で、ホルモン治療は非常に有効であるため、ステージ4でも5年生存率は約70%あります。そのため、他のがんと比較すると予後良好な疾患です。当院ではかかりつけ医として末永くよい信頼関係を築きながらがんの治療を行っていきたいと思っています。どんな小さな疑問でも気軽に聞けるような関係を築けるよう、努めて参ります。