子宮内膜症について
子宮内膜症は、子宮内膜または似た組織(以下、子宮内膜等と呼びます)が、本来の場所である子宮内腔以外の場所に生じて、そこで発達する病気です。この病気は20〜30代の女性に多く、30〜34歳の女性の発症が特に多く確認されます。子宮内膜症では、子宮内膜等の増殖は女性ホルモンに依存するため、子宮内膜等は月経周期に対応して増殖します。この時、通常は月経時に排出される血液が子宮内腔以外の場所に溜まり、周囲の組織と癒着して様々な痛みが生じます。さらに、子宮内膜症は不妊症を引き起こすこともあるため、専門医による治療が必要です。
子宮内膜症とチョコレート嚢胞
子宮内膜等が卵巣に生じて形成する嚢胞をチョコレート嚢胞と言います。卵巣に嚢胞が形成され、その嚢胞に古い血液が溜まると、この血液がチョコレートのような色合いをしているため、「チョコレート嚢胞」と呼ばれています。
子宮内膜症に気づくきっかけ
子宮内膜症の診断
最初に、詳しく症状をお伺いし、次に内診で卵巣や子宮の可動性や痛みをチェックします。続いて、超音波検査で子宮や卵巣の状態を確認し、腫大が認められた場合は、MRI検査でさらに詳しい検査を行い、子宮内膜症の診断に繋げます。また、血液検査でCA125やCA19-9といった腫瘍マーカーの値を測定し、子宮内膜症の可能性を評価することもあります。
子宮内膜症の治療
手術療法
子宮内膜症の治療には、腹腔鏡手術をお勧めします。この術式では、従来の開腹手術に比べて傷口が小さく、痛みも弱いので、術後の回復が早く、美容上も効果的です。腹腔鏡手術では広い視野を確保できるため、骨盤の深部にある病巣に対しても有効です。ただし、手術をしても子宮内膜症の再発のリスクが高く、卵巣機能の低下が必ず生じるため、手術の時期や方法、術後の治療計画については慎重に検討する必要があります。手術方法を検討するにあたっては、妊娠希望の有無で選択が異なります。妊娠を希望する場合、卵巣や卵管の正常な機能を回復させる必要があります。例えば、チョコレート嚢胞を除去して癒着を解消し、病巣を焼き切る処置に留めます。これにより痛みの軽減も期待できます。一方、妊娠を希望しない場合で、痛みが強い場合には、子宮摘出手術も選択肢として検討します。
薬物療法
薬物療法は2つに大別されます。対症療法として、痛みの軽減だけを目的とする方法と、根本的に子宮内膜症の進行を抑制し、病巣を縮めるホルモン療法の2つです。
対症療法
対症療法では、主に解熱鎮痛剤が使用され、生理痛などの症状を軽減します。これは、将来妊娠を希望する若い女性に特に有効ですが、子宮内膜症の進行を止めることはできません。病状が進行し、対症療法では効果がない場合、ホルモン療法に切り替える必要があります。
ホルモン療法
ホルモン療法に使用する薬剤には、GnRH作動薬・拮抗薬と低用量ピルの2種類があります。
GnRH作動薬
子宮内膜症の初期治療として、GnRH作動薬や拮抗薬を用いて卵巣ホルモンの分泌を抑える方法があります。GnRH作動薬はGnRH受容体を継続的に刺激することにより受容体の感受性を低下させることで卵巣ホルモンの分泌を抑制します。こうして人為的に閉経状態を作り出し、排卵や生理を止めます。ただし、副作用として骨粗しょう症のリスクがあるため、使用期間は通常4〜6ヶ月に制限されます。そのため、漸減療法としてGnRH作動薬の量を徐々に減らして、長期的に子宮内膜症を管理する方法が行われることがあります。この治療法は、生理を軽くし、特に長い治療歴を持つ方や閉経が近い方に有効です。
低用量ピル
低用量ピルによる治療法は、黄体ホルモン療法(ジェノゲスト)として知られ、古くから行われています。子宮内膜症の治療は基本的に長期にわたるため、骨への影響が少ない低用量ピルは有用で、長期投与は再発予防にも役立ちます。なお、副作用として血栓症のリスクがあり、特に高血圧の方や喫煙者への適応は慎重にする必要があります。
子宮内膜症は再発リスクが高い
子宮内膜症は女性ホルモンに依存して増殖するため、偽閉経療法(生理を一時的に止める方法)や偽妊娠療法(ピルや黄体ホルモンを使用する方法)を行っても、治療を中止してホルモン分泌が元に戻ると、残っていた病変が再度増殖しはじめ、病状が進行し、出血が再発することがあります。このため、子宮内膜症は再発しやすい疾患と言われてきました。手術後も放置すると、症状が再び悪化する場合があります。そのため、手術後も薬物療法で症状をコントロールし、再発を予防することが必要です。特に、偽妊娠療法にも用いられる黄体ホルモン製剤は、薬剤の種類によっては病変に直接作用することもあり、手術後の管理手段としても利用されます。
子宮内膜症と不妊症
子宮内膜症は不妊症と密接に関係していることが知られています。不妊症の多くの方が子宮内膜症を抱えていますが、これは必ずしも子宮内膜症になると妊娠できないことを意味するわけではありません。子宮内膜症によって子宮や卵管、卵巣に癒着が生じ、精子や受精卵の通り道が狭くなるため、妊娠しづらくなるのです。 当院では、専門的な立場から子宮内膜症の検査や治療を行うだけでなく、不妊治療も専門的に行っています。子宮内膜症と不妊症の関係を考慮した総合的な見地から治療をご提供できると考えておりますので、まずはお気軽にご相談ください。