肝機能の検査
肝臓は多くの役割を担う臓器
肝臓と腎臓は体内の重要な役割を担っており、体内の化学工場といわれています。主な働きに、小腸からの栄養素を分解・合成して血液中に送り出す・アルコールやニコチンの分解、毒素の解毒作用・胆汁の生産・赤血球の分解・余分な栄養素を貯蔵するなどがあります。そのため、検査項目が多くなるためたくさんの検査項目を組み合わせ、結果を総合的に見て判断します。
肝障害が起こる原因と進行
肝障害はB型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎が原因で発症します。その一部は慢性肝炎、のちに肝硬変・肝がんへと進行します。アルコール・薬物・自己免疫・成人男性に多く見られる脂肪肝ではアルコール・栄養を過剰摂取することが原因の一部となっています。検査をする際、ウイルス肝炎の有無や種類・肝細胞がどの程度破壊されているか・慢性化や肝硬変の有無を詳しく調べます。
予防することが大切
肝臓は沈黙の臓器といわれており、自覚症状が出にくい・感染に気付きにくいことがあります。肝臓自体は丈夫な臓器であるものの、症状を自覚した頃には治すことが難しい状態になっています。さらに特効薬がないので、発症を予防することが大切です。ご自身の身体について十分に理解し、健康管理に努めることが大切です。
GOT(AST)肝臓・心臓の障害を検査する
心臓・肝臓・筋肉・腎臓の細胞に含まれる酵素であるGOTは、臓器に異常が起こって細胞が破壊されることで血液中に放出されます。これにより、血清中の数値が高くなります。数値が高くなると、肝臓・心臓・筋肉が破壊・壊死し、肝障害・心筋症・心筋梗塞・骨格筋・甲状腺機能亢進症などが起こります。
GOT値の目安
値mg/dl | 判定 | 対策 |
8未満 | 低値 | 安静者・妊婦・人工透析者に見られるものの、経過観察可。 |
8~38 | 正常 | |
39~89 | 軽度上昇 | 心筋梗塞・肝硬変・慢性肝炎・アルコール性肝炎・脂肪肝・甲状腺機能亢進症の可能性あり。医師の指導が必要。 |
90~499 | 中程度上昇 | 急性ウイルス肝炎・薬剤性肝炎・活動性慢性肝炎・胆道疾患の可能性あり。医師の指導・治療を要する。 |
500以上 | 高度上昇 | うっ血性肝炎・急性肝炎が見られる。劇症肝炎の場合は要入院。 |
GPT(ALT)肝臓の異常を検査する
GPTとGOTは酵素であり、肝炎を発症すると高い数値が出ることがあります。数値の判定・対策方法はGOTと同様であり、正常値は4~43IU/Lとなります。肝障害を起こしている場合、心臓の細胞にはあまり含まれていませんが、GOT値がGPT値より数値が大きくなります。
γ-GTP アルコール性肝障害の可能性を検査する
γ-GTPは、肝臓・腎臓・膵臓内の細胞膜にある酵素であり、飲酒量が多い場合や様々な疾患が合わさることで血液中に排出され、血清中の数値が高くなる傾向にあります。γ-GTPはアルコールに対する反応が鋭敏であるため、肝臓・胆道で異常が見られる場合は他の酵素よりも異常値が早く出ます。そのため数値が高い場合は、アルコール性の肝臓障害の基準となります。
γ-GTP値の目安
値IU/L | 判定・対策 |
男性86以下 女性48以下 | 正常 |
男性87~499 女性49~499 | 過飲の場合、適正量を心がける。肝硬変・肝炎を発症することが稀にある。薬物性肝障害に関しては、他の検査結果を見て評価する。 |
500以上 | 入院後、精密検査。日常生活に関して医師より要指導。 |
検査機関・検査方法によって正常値に差が出ることがあります。
アルカリフォスファターゼ(ALP) 肝臓・胆道・骨の異常を検査する
ALPは体内の臓器・骨に含まれる酵素です。肝臓から胆管、十二指腸、骨を経由して胆汁に排出されます。ALPの数値が高い場合、GOT・GPTが正常値でも骨疾患の可能性があります。なお、GOT・GPT・ALP全ての数値が高い場合には、肝臓・胆道の疾患を発症していることがあり、肝障害・胆道閉塞・閉塞性黄疸・胆道結石・胆道がんなどの胆汁うっ滞、骨成長・骨肉腫・潰瘍性大腸炎などを発症しても数値が高くなります。ALPは肝臓・胆道・小腸・骨のいずれにも存在しますが、同じ酵素でもたんぱく質の構造が異なります。そのため、健康診断でALPの数値が高いときに精密検査を行うと、どの臓器に病気が発生しているのか調べることができます。
LDLコレステロール値の目安
値IU/L | 判定 | 対策 |
354以下 | 正常 | |
355~400 | 軽度上昇 | 軽度で他に異常が見つからない場合、経過観察。必要に応じて肝機能・超音波・アイソザイム分析検査を行う。 |
400以上 | 高度上昇 | 胆道がん・胆がん・胆石の可能性あり。入院して検査する可能性あり。 |
総たんぱく(TP) 肝臓・腎臓の異常の有無を検査する
臓でろ過されて体内で使われます。血清中のたんぱく質濃度を検査することで、肝臓・腎臓の異常を見ることができ、肝機能障害が起きていると総たんぱくの数値が低くなります。体内でたんぱくの合成異常・分解異常、消費・漏出が原因となってたんぱく値に異常が出ます。数値が高いと肝硬変・慢性肝炎・悪性腫瘍・多発性骨髄腫など、低い場合には肝障害・栄養不良・ネフローゼ症候群などが疑われます。数値の濃度結果次第で、必要に応じた検査を行います。
総たんぱく値の目安
値mg/dl | 判定 | 対策 |
5以下 | 低たんぱく血症 | 分画の検査を行い、低下しているものを調べる。 |
~ | 軽度低たんぱく血症 | 他の検査結果を確認し、問題がなければ経過観察可。 |
6.5~8.5 | 正常 | |
~ | 軽度高たんぱく血症 | 他の検査結果を確認し、問題がなければ経過観察可。 |
10以上 | 高たんぱく血症 | 健康状態を考慮しながら再検を行い、必要であれば分画を検査する。 |
総ビリルビン(T-Bil) 黄疸の状態を計測する
総ビリルビンは、肝機能障害によって数値が上昇し、赤血球が古くなって破壊されたときに出てくるものであり、肝臓で分解されて胆汁として排出されていきます。ビリルビンが血液中に増加することで皮膚が黄色くなります。この状態を黄疸といい、数値が2.0mg/dl以上をさします。この数値で、ビリルビンの代謝が起こる過程のどこかのタイミングで異常が起こっていることがわかります。
総ビリルビンの目安
値 クンケル単位 | 判定 | 対策 |
1.2以下 | 正常 | |
1.3~5.0 | 軽度ビリルビン血症 | 肝機能・赤血球数を検査。異常がなければ経過観察する。 |
5.1以上 | 中・高度ビリルビン血症 | 肝臓・胆管の精密検査、数値が10mg以上の場合、入院後、精密検査を行う。 |
硫酸亜鉛混濁試験(クンケル試験)(ZTT) 肝機能を検査する
血清中のたんぱく質を調べるもので、血清たんぱくの沈殿量によって肝臓の状態を確認します。クンケル試験とチモール混濁試験(TTT)が代表的な検査方法で、どちらも血清中のたんぱくが1分画であるγ-グロブリンを計測するものです。肝臓で7~8割の血清たんぱくが作成され、肝機能検査で慢性化・肝硬変の検査基準となっています。肝障害の慢性化である肝硬変ではγ-グロブリンが増えるため、肝細胞や肝機能に異常がある場合にはこの検査が有効となります。
硫酸亜鉛混濁試験値の目安
値 クンケル単位 | 判定 | 対策 |
12.0以下 | 正常 | |
12.1以上 | 異常 | 慢性肝疾患・膠原病・骨髄腫の可能性あり。必要に応じて精密検査を行う。古い結核・慢性感染症によっても数値が上がるため、既往症を確認する。 |
高齢者の場合、数値が高くなる傾向があります。
チモール混濁試験(TTT) 肝機能の異常の有無を検査する
血清中のγ-グロブリンの量を検査し、硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)と同じく、血清中のたんぱく質を調べる検査です。慢性肝炎・肝硬変・慢性感染症・膠原病・A型肝炎などを発症すると数値が増加します。
チモール混濁試験値の目安
値 クンケル単位 | 判定 | 対策 |
4.0以下 | 正常 | |
4.1以上 | 異常 | 再検査し、その他の肝機能の数値も参考にする。必要に応じて精密検査を行う。 |
高齢者の場合、数値が高くなることがあります。
アルブミン(Alb) 肝臓・腎臓の異常の有無を検査する
アルブミンは80種類以上ある血液中のたんぱく質の5~7割を占め、血液中の血清に一番多く含まれているたんぱく質です。肝臓でだけ合成されるもので、腎臓でろ過される仕組みです。アルブミンと同じタンパク質であるグロブリンは基準値を超えることは稀です。しかし、肝臓・腎臓に何かしらの障害が発生していると数値が下がり、肝障害・ネフローゼ症候群・多発性骨髄腫・慢性感染症・栄養不良などを発症している可能性があります。
アルブミン値の目安
値 g/dl | 判定 | 対策 |
3.5以下 | 低たんぱく血症 | 分画を検査することで、低下している原因を調べる。 |
3.5~5.3 | 正常 | 他の検査結果を見つつ、問題がなければ経過観察する。 |
乳酸脱水素酵素(LDH) 肝臓・心臓・血液の障害をスクリーニングする
乳酸脱水素酵素は、体内のほぼ全ての臓器に含まれます。糖がエネルギーとして変化し、働く役割を持つ酵素であり、肝臓・腎臓・血液・筋肉・肺・がん細胞に含まれるものです。臓器のどこかに障害が起こっていると数値が上昇し、損傷場所を確認するためにスクリーニング検査が行われます。心臓・肺の場合には、心不全・心筋梗塞・肺梗塞が起こります。肝臓の病気では、肝硬変・肝炎、胆道や血液の病気では白血病・悪性腫瘍・リンパ腫などを引き起こします。
γ-GTP値の目安
値IU/L | 判定 | 対策 |
120以下 | 低値 | 正常者にも出る数値であり、経過観察を行う。 |
120~442 | 正常 | |
442~500 | 軽度上昇 | 肝硬変・慢性肝炎・筋障害・腎炎・軽度の心筋梗塞の可能性あり。 |
500以上 | 中・高度上昇 | 心筋梗塞・悪性腫瘍・溶血・白血病・悪性貧血の可能性あり。 |
LDHの数値が高くても、病気の特定が困難な場合があります。その時の症状・その他の検査と照らし合わせて総合的な判断が必要。