腱鞘炎とは
骨や筋肉をつなぐ腱を包むトンネル状の組織が腱鞘で、スムーズな動作を助ける役割を持っています。腱鞘炎は、指の腱と腱鞘がこすれあって炎症を起こしている状態で、手指をよく使う方の発症が多くなっています。腱鞘炎が進行すると、ばね指やド・ケルバン腱鞘炎などを発症することもあります。また放置していると進行して関節が固まってしまい、治療をしても機能を完全には回復できなくなることがありますので、早めに受診してしっかり治すようにしてください。腱鞘炎は注射による治療で改善できるケースもありますが、確実に治すためには腱鞘を広げる手術が必要になり、機能をしっかり回復させるためには術後のリハビリテーションが重要になります。
ばね指
腱鞘炎が進行して起こる症状で、曲げている指を伸ばす際に一瞬引っかかってからバネのような勢いをつけて伸びることからこの名称で呼ばれています。親指・中指・薬指に生じることが多くなっていますが、それ以外の指に生じることもあります。放置すると関節拘縮を起こし、関節の動かしにくさが固定化して動きが大きく制限されてしまいます。指の先端から2番目の関節で拘縮を起こすケースが多く、拘縮まで進んでしまうと治療が困難になってしまいますので、早めに整形外科を受診してください。
ばね指の症状
曲げた際の痛みや伸ばす際の引っかかりといった症状が現れます。こうした症状は起床時に強く出て、時間が経過すると緩和しますが、進行すると緩和までの時間がかかるようになり、さらに進行すると関節が固まって動かなくなる関節拘縮を起こし、日常生活に大きな支障を生じます。
ばね指の原因
指を曲げ伸ばしする際には、前腕筋肉から腱によって指先まで力が伝わっています。腱は太く丈夫な組織であり、トンネル構造の靱帯性腱鞘を通っています。腱が靱帯性腱鞘に包まれていることで腱が指の形に添って曲がりながら力を指先まで伝えることができます。腱が動くことで生じる摩擦は、粘り気のある液を含む袋状の滑膜性腱鞘という組織によって防がれています。この滑膜性腱鞘に炎症が生じ、腱の動きが悪くなると炎症が靱帯性腱鞘に及び、靱帯や腱鞘の腫れが強くなってばね指を発症すると考えられています。
ばね指の治療
症状が軽い場合には保存的療法による治療を行いますが、日常生活に支障を生じるほど悪化している場合には手術が必要です。
保存的療法
炎症が軽度の場合、まずは急性期の安静で経過を観察し、炎症が改善したら適切なストレッチングなどを行って機能改善を図ります。安静では炎症が改善しない場合には、痛みや炎症をできるだけ短期間に解消するために局所麻酔剤と副腎皮質ホルモン剤の混合液を腱鞘内に注射します。副腎皮質ホルモンは炎症を抑える強力な効果があり注射直後に効果を得られますが、組織の萎縮を生じることがあります。こうしたことから数回の注射を行っても症状がぶり返してしまう場合には、手術が必要になります。
ばね指の手術
指は特に鋭敏な感覚があり、痛みなどを強く感じます。手術をはじめる際には局所麻酔によって完全な無痛状態になっていることを確認することが重要です。 治療が必要な腱鞘の直上皮膚を約1cm切開しますが、斜めの切開を行うことで最小限の切開で広範囲の病巣にも対応できるようにしています。デリケートな手技で原因となっている腱鞘を露出させて状態を詳細に確認することで、周囲の動脈や神経を傷付けることのない手術が可能になります。露出した腱鞘を切り開いて内部を確認した上で隔壁も切り開きます。肥厚や粘液嚢胞などの有無を確認し、腱による指先の動きを確かめてから細い糸で丁寧に縫合したら手術は終了です。術後1週間程度経過してから抜糸となります。
ド・ケルバン病
親指を伸ばす腱に生じる腱鞘炎で、発症のメカニズムはばね指と共通しており、保存的療法の内容もほぼ同様です。親指を伸ばす3本の腱のうち、親指の付け根の手首部分にある長母指外転筋腱と短母指伸筋腱に痛みを起こします。
ド・ケルバン病の症状
手首の親指側に痛みや腫れを生じます。親指を握って手首を小指の方に曲げる、親指を最大限伸ばすなど、親指を広げる・反らす・動かすことで強い痛みを起こします。 親指を伸ばす腱は3本あり、手首の親指の付け根側にある長母指外転筋腱と短母指伸筋腱がド・ケルバン病で痛みを生じさせる場所です。この2本の腱は滑膜性腱鞘に包まれており、さらに靱帯性腱鞘によっておおわれています。付近に感覚神経が通っているため、手術の際にはここを傷付けないよう丁寧に行う必要があります。
ド・ケルバン病の手術
症状を起こしている長母指外転筋腱と短母指伸筋腱のすぐ近くに感覚神経が通っており、そこを傷つけないよう十分に注意した手術を行う必要があります。 局所麻酔を行った上で、患部の直上皮膚を切開しますが、術後の傷跡は目立たなくなるよう手首にある皮膚のしわに沿って切開しています。斜めに約2cmの切開を行い、周辺の感覚神経や皮下神経など重要な組織をよけながら繊細な手技で腱鞘を確認した上で切開し、隔壁がある場合にはそれも切開して腱を完全に開放し、傷跡を最小限にする形成外科的縫合を丁寧に行って手術は終了です。なお、内部に血液がたまらないよう、シリコンの細い管を留置し、翌日にその管を取り除く処置が行われることもあります。術後1週間程度経過してから抜糸となります。軽度の作業であれば、術後から行うことができます。