陰部(性器)の痛み

下着やナプキンの摩擦、あるいは女性ホルモンの周期により、デリケートゾーン(陰部)は敏感になることがあり、その結果、腫れや痛みが生じやすい部位となります。原因がはっきりしないにもかかわらず、ズキズキとした痛みやヒリヒリ、チクチクとした痛みが生じた場合、何らかの疾患の可能性があるため、医療機関での診察が必要です。 デリケートゾーンの痛みには様々な原因が考えられます。以下では、それらの疾患と対応策について説明します。

性器ヘルペス

単純ヘルペスウイルス(HSV-1型またはHSV-2型)は、皮膚や粘膜に感染し、ウイルス性の皮膚疾患を引き起こします。デリケートゾーンの感染は主にHSV-2型が原因です。 陰部ヘルペスは、感染後2日~10日の潜伏期間を経て、赤い小さな水ぶくれとチクチクする痛みを出すのが特徴です。水ぶくれが破れてくっつくと浅い潰瘍ができ、強い痛みを起こします。発熱や頭痛、便秘や、足の付け根にあるリンパ節の腫れなどを伴うことがあります。抗体が形成されると、症状は3週間~1ヶ月のうちに落ち着きます。 感染は、ウイルスを持つ方との性交渉によって起こります。一度感染すると、ウイルスは神経節に潜伏し、免疫力が低下した際に再発することがあります。再発時の症状は初感染時よりも軽いことが多いのですが、水ぶくれや潰瘍、全身の倦怠感が再び現れます。症状がない時期でも性器や粘膜にウイルスが存在しているので、感染のリスクはあります。ただし、抗体があれば発症を防げる可能性もあります。

ヘルペスについて

ベーチェット病

ベーチェット病は、慢性的な炎症を引き起こす皮膚疾患であり、膠原病に関連する病気の1つです。この病気の原因は未だにはっきりと解明されていませんが、何らかの要因により、自己免疫と自然免疫のバランスが崩れ、病気が発生するとされています。 発症したばかりの段階では、口内炎や目の充血、飛蚊症などといった、口内や目の症状が現れることが多いです。デリケートゾーンに症状が出ると、口内炎に似た赤い発疹が生じ、痛みを伴った深い潰瘍に進行することがあります。また、排尿や歩行時に激しい痛みを感じることもあります。口内、目、皮膚、性器などに同時に複数の症状が現れることや、関節炎や血管病変、消化器病変、中枢神経病変などの追加症状が発生することもあります。症状は個人差が大きく、再発を繰り返してしまう患者様が多いです。 患者様が特定の基準に達している場合は、指定難病として国からの医療費支援を受けることが可能です。

帯状疱疹

帯状疱疹は、水ぼうそうの経験がある方なら誰でもかかり得るウイルス性の病気です。水痘・帯状疱疹ウイルスが神経節に潜んでおり、加齢や過労などで免疫力が下がったのをきっかけに起こる傾向にあります。50歳以上の方に多く見られます。 初期症状には、しびれるような軽い痛みが起こりますが、徐々に強い痛みへと変わります。水ぶくれのある赤い帯状の発疹が現れ、眠れない程の激しい痛みを伴うこともありますが、通常は3~4週間で治まります。ただし、高熱(39℃以上)や全身倦怠感、失明、難聴、顔面麻痺などの重篤な症状を引き起こすこともあるため、早めに医療機関へ受診する必要があります。 帯状疱疹は、体の片側に沿って発症する特徴があります。デリケートゾーンにも影響を及ぼすことがあり、治療には軟膏や抗ウイルス薬が使用されます。

粉瘤

粉瘤(ふんりゅう)は、皮膚の下に形成される袋状の組織ができる病気です。良性腫瘍の1つとされていて、その組織の中には、皮脂や角質などが詰まっています。肉眼では半球形の膨らみとして確認でき、その頂点には小さな開口部ができています。開口部の穴が黒く見えることもあります。 症状が軽度の場合、痛みはほとんど感じません。ただし、傷ができてそこに細菌が侵入すると炎症を起こし、腫れや圧痛を引き起こすことがあります。膿が内部に溜まって破裂すると、中身が外に出ることもあります。膿が出た後は一見治癒したように見えますが、粉瘤は再発しやすいため、時間が経つと再び形成されることがあります。 粉瘤の発生原因は多岐にわたり、自然治癒されたケースはほとんどありません。放置するとサイズが大きくなる可能性もあるため、手術で摘出するのが望ましいです。

陰部の痛みの診断・鑑別

デリケートゾーンの痛みは色々な病気によって起こるので、専門医による診断と鑑別が重要です。 陰部ヘルペスとベーチェット病は、どちらも高熱と潰瘍を伴うため、区別するのは困難です。性器ヘルペスでは、初期段階で水ぶくれが形成され、その後浅い潰瘍が出現します。一方、ベーチェット病では、より深い潰瘍と激しい痛みが見られます。 帯状疱疹は、局所的ではなく広範囲にわたって面状に症状が現れ、痛みは体の片側の神経に沿って感じられます。 粉瘤は、前に述べた病気と違い、水ぶくれや傷ができることはありません。通常は皮膚とほぼ同じ色をしていますが、炎症が起きると赤く腫れ上がり、膿を含むことがあります。

陰部の痛みの治療

性器ヘルペスの治療では、主に抗ウイルス薬(飲み薬)や軟膏などが用いられます。症状が重い場合には、病院での点滴治療を検討することもあります。ウイルスが神経節に潜んでいるため完全に排除するのは不可能ですが、再発を防ぐ薬剤を用いて症状をコントロールすることは可能です。 ベーチェット病は、症状が一時的に治まったり再発したりすることが多い病気です。そのため治療は、「症状の寛解」を目的に行います。患者様の症状や希望に応じて、ステロイドを含む外用薬や飲み薬、粘膜保護薬、その他治療薬が処方されることがあります。 帯状疱疹の治療では、発疹や痛みに対して抗ウイルス薬や痛み止めが使用されます。帯状疱疹後の神経痛には、鎮痛薬が処方されることがあります。外陰部に症状がある場合は、抗ウイルス性の軟膏を塗布してウイルスの増殖を抑えます。 炎症を伴った粉瘤の治療には、抗生剤の服用や局所麻酔下での切開・排膿が行われます。

予防と注意点

デリケートゾーンの痛みは、感染症が主な原因であり、迅速な治療によって回復が早まります。しかし、疾患によっては再発しやすいため、日常の予防とケアが重要です。当院の婦人科は女性医師が担当しておりますので、お気軽にご相談ください。

当院の性感染症診療について