梅毒

梅毒とは

梅毒は、「トレポネーマ・パリダム」という螺旋形の細菌によって引き起こされる性感染症です。ペニシリンが発見される前には治療法がなく、「不治の病」とされてきた疾患でしたが、抗生物質の普及により日本では大幅に減少しました。 それにもかかわらず、国立感染症研究所によると2010年以降、患者数は再び増加しています。以前は主に男性同性愛者に多かった梅毒ですが、近年は異性間の性交渉による感染が増えており、特に10代~20代前半の女性の患者数が増加していることが報告されています。 梅毒は、皮膚や粘膜にできた小さな傷から体内に侵入し、血液を介して全身に広がります。性交渉の他、オーラルセックスやアナルセックス、さらにはキスによっても感染する可能性があります。感染部位は性器だけでなく、口腔や咽頭の粘膜にも及びます。感染後の潜伏期間は約3~6週間です。 感染しても、しこりや発疹は自然に消えることがありますが、これは病原菌が体内で増殖を続けている証拠です。症状が見えなくなっても感染は続いており、知らずに他者へ感染を広げるリスクがあります。早期発見と治療によって完治は見込めますが、放っておくと神経や脳に深刻なダメージを与えてしまう恐れがあります。

梅毒の症状

梅毒に感染すると下記のように進行します。症状が現れたり消えたりしながら悪化していきます。

第1期 感染から2~3週間後、性器や口内、喉に硬いしこり(痛みは伴わない)が形成されます。表面がただれて潰瘍に変化することもあります。 足の付け根や首など、感染部位のリンパ節が腫れることもありますが、痛みは伴いません。治療を受けなくても、約6週間でしこりは自然に消えます。
第2期 感染から3ヶ月~数ヶ月で、全身に痛みやかゆみのない赤い発疹(バラ疹)が出現します。これらの発疹も自然に消失します。
第3期 感染から3年経過すると、皮膚や筋肉、骨、肝臓、腎臓などの臓器に硬いしこりやゴムのような腫れが現れます。特に鼻骨周辺にできるゴム腫は「鞍鼻(あんび)」と呼ばれます。
第4期 感染から10年以上経つと、大血管や神経、脳が侵され、大動脈瘤の形成や破裂、運動機能の低下、四肢の麻痺、記憶力の低下、痴呆などの重篤な症状が現れます。最悪の場合、命を落とすこともあります。

日本では、梅毒の第3期や第4期に進行した症例は稀ですが、治療を受けずに放っておくと、重篤な健康問題を引き起こす恐れがあります。男女問わず、梅毒が原因で複数の臓器に腫瘍が発生したり、脳や神経系に深刻な影響を及ぼしたりして、最悪の場合命を落とすこともあります。 特に女性においては、梅毒に感染した状態で妊娠すると、約50%の確率で流産や死産のリスクが高まります。また、赤ちゃんにも梅毒がうつってしまうこともあります。性行為による感染が疑われる場合は、1ヶ月以上経過していれば検査が可能ですので、早めに検査を受けることをお勧めします。

梅毒の検査

血液検査によって感染の有無が分かります。即日検査を利用すれば、結果は約15~30分で判明します。もし検査結果が陽性であれば、さらに精密検査も追加します。感染している場合は抗生物質を用いた治療を始めます。

検査を受ける方へ

  • 妊娠中や生理期間中の女性は性器の検査(腟ぬぐい検査)を受けることができません。妊娠している場合は、産婦人科にて相談してください。
  • 生理期間中の方は、生理終了後に検査を受けることをお勧めします。ただし、妊娠中や生理中でも、咽頭検査や血液検査は可能です。
  • 抗生剤を服用中の方は、検査の正確性に影響が出ることがあるため、内服終了後2週間以上経ってから検査を受けてください。

梅毒の治療

梅毒治療には3種類の抗生剤が使用され、効果が見られない場合には薬剤を変更することがあります。治療せずにいると症状が悪化し、投薬期間が長くなったり後遺症のリスクが高くなったりしてしまうので、早期のうちから検査を受けましょう。
オーラルセックスを行うカップルが増加している影響によって、咽頭や口腔内に梅毒の病変が見られる女性が増えています。また、咽頭に感染するクラミジアや淋病も、近年増加傾向にあります。咽頭に梅毒が感染した場合、喉の痛みや違和感、白い斑点の出現などの症状を引き起こします。 梅毒の患者様はHIV感染のリスクも高く、日本性感染症学会の「性感染症診断・治療ガイドライン」では、梅毒診断時にHIV検査も行うように案内されています。